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BTS沼落ちきっかけになった曲・MV・パフォーマンス10選

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※本記事はnoteからの転載となります〈2020年12月30日 BTS沼に落ちたきっかけになった曲、MV&パフォーマンス・10選

『Dynamite』で急速にBTSにどっぷりハマった私。最近は私のハマり様を見て「BTS、気になってるんだよね。オススメの曲は何?」とか、「BTS、何がそんなに良いの?」と聴いてもらえる事がちょくちょくあるのですが、毎回物凄く悩みます。一言で言い表せられないから。そこで、私がBTSにハマったきったけになった10曲について書き出してしてみることにしました。BTSの楽曲・パフォーマンス・歌詞の良さはもちろんのこと、「自己肯定」「ジェンダーニュートラル」「社会活動」「フェミニズム」「グラミー賞」などのエピソードを交えつつ、彼等が伝えようとしているメッセージの温かさを新人ARMY(BTSファンの総称)なりにまとめた、個人的な研究ノートです。批評等ではなく、個人の体験を交えた「沼落ち日記」第2弾でもあります。いや、BTSは「沼」が深いんじゃない。「懐」が深いんだ。

【注意】本記事の楽曲解釈は、筆者個人の解釈になります。あくまで「個人の解釈」である点をご理解の上、読んでいただけますと幸いです。

※後追い組のまとめにつき、間違い等あればお教えください先輩方

 

【目次】

  1. 『Dynamite』 ー パンデミックの世界に響いた「ポジティブさによる慰め」と、グラミー賞ノミネート
  2. 『IDOL』 ー 「自分を愛する事」で再び戦いに挑む、祝祭の歌
  3. 『ON』 ー 進み続ける、という意志表明
  4. 『Boy With Luv (feat. Halsey)』 ー 世界のアーティストとのコラボレーションと、BTSが歌うジェンダーニュートラルな「愛」
  5. 『Black Swan』 ー 芸術的なBTSのダンスと、アーティストの苦悩
  6. 『Spring Day』 ー BTSは社会問題を「自分事」として捉えている
  7. 『HOME』 ー BTSとファン「ARMY」との相互関係
  8. 『21st Century Girls』 ー 失敗と反省から得るもの。BTSフェミニズム
  9. 『Anpanman』ー 「BTSアンパンマン」恵まれている日本のARMY
  10. 『Life Goes On』ー 新しい日常でも「人生は続く」。もがいた先の希望

 

 

SONG LIST 01. 『Dynamite』

パンデミックの世界に響いた「ポジティブさによる慰め」と、グラミー賞ノミネート

まずは何と言ってもこの曲。韓国人アーティスト初となる「Billboard Hot100」1位を獲得(それも3週)などの記録を打ち出している『Dynamite』は、意外にもBTSにとって初の全編英語詩の楽曲だ。デビュー以降じわじわと世界での人気を広げ、2016年リリースの2ndアルバム『WINGS』で初のBillboardチャート入りを果たした彼等は、新作を出すたびにチャートもじわじわと上昇。そして『Dynamite』でタイトル通り爆発的人気となった…と、チャートの話は人気の証であるとして、何より『Dynamite』は曲が良い。どうしても気持ちが塞ぎ込んでしまう2020年という年に聴こえて来た、70s DISCO POPを思い出させる軽快なリズム。MVではパステルカラーを基調にしたセットで、レトロなディスコファッションやGUCCIコレクションを着こなしたBTSメンバーがマイケル・ジャクソンを思わせる動きを取り入れながら軽快で楽しいダンスを繰り広げている。この楽曲やMVが世界から支持される理由は、「ポシティブさによる慰め」がパンデミックの最中の人々に響いたではないだろうか。このポジティブさが懐かしいと思えてしまう程、現在の世界は過酷な状況だ。そんな中で聴く『人生はダイナマイトだ / ファンクとソウルでこの街を照らす / だから輝かせるよ、ダイナマイトみたいに』という歌詞は、特別な輝きを放つ。こんな過酷な年があっても、人生は続く。『Dynamite』は2020年という年に差し込んだ光そのもののように私には感じられ、この曲に出会ってから繰り返し繰り返し聴いていた。

BTSの楽曲を聴くのは初めてではなかったし、単純に気に入って聴いていた『Dynamite』だったものの、私が完全にBTSの「沼」に足を踏み入れたのは上記の『America's Got Talent 2020』で披露されたパフォーマンスがきっかけだった。韓国の遊園地で撮影されたというMVさながらの映像とパフォーマンスは見ていてあまりに楽しく、一度見た後に思わず2度3度と繰り返し見てしまった。今までリーダーのRMしか顔と名前が一致していなかった私にとっては「メインで歌ってる子(JUNG KOOK)はパフォーマンスでも歌がブレないな…」とか「この声の高い子(JIMIN)は踊りもうまいな…」とか「車の中で歌ってる子(V)は声が良いな。あとピースしてて可愛い…」など、個人へ視点が向いて行ったきっかけになった。このパフォーマンスを見た後、私はRM以外の6人のメンバーの顔と名前を調べて、一致させるのに2日を要した。(活動名・本名・あだ名とMVごとに変わるメンバーの印象に混乱したのは私だけではないはず)

 

2020年11月24日、第63回グラミー賞の候補が発表され『Dynamite』が「最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンス部門」にノミネートされた。K-POPアーティストとして初のグラミー賞候補入りという快挙を果たしたBTSだが、個人的には「主要4部門」へのノミネートが無かった事に残念さを感じずにはいられない。グラミー賞が保守的、白人優位だと批判され「#grammysowhite」(白すぎるグラミー)のハッシュタグで抗議が行われたのが2017年。2018年には、男性ばかりが受賞することに対し「#GrammySoMale」(男だらけのグラミー)の抗議が起きるなど、ノミネートや受賞者の偏りについてはゆっくりと改善の兆しを見せたり、結局あまり変わらなかったりしている。そんな中、K-POPアーティスト達はアメリカでの人気は高かったものの、ずっと蚊帳の外のような扱いだった。「#grammysowhite」の抗議で「ブラック」アーティストのノミネートが増えたとしても「イエロー」アーティストは入れない、という疎外感。そして2019年、グラミー賞は「多様性と包括性(Diversity and Inclusion)」をテーマに掲げた。この年にBTSはアルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』が「最優秀レコーディング・パッケージ」にノミネートされ、授賞式に参加、プレゼンターとして壇上に上がっている。しかしこの賞はアーティストが受賞する音楽賞とは異なり、受賞するのはカバーとパッケージをデザインしたデザイナーだ。2020年にはラッパーのLIL NAS Xとのコラボレーションでパフォーマンスステージに上がった初の韓国人アーティストとなった。しかし、BTSはこの年は何の賞にもノミネートもされなかった。授賞式には呼ばれるものの「楽曲そのもの」への評価を貰えない年が2年続いた。

BTSは2020年10月頃から多くのミュージックアワードにも出演している。アメリカ3大音楽授賞式のひとつ「2020 Billboard Music Awards」では、4年連続「Top Social Artist」を受賞。それ自体はめでたい事なのだが、4年も連続していたら、もうそろそろ「ソーシャル」から抜け出せないものなのか。「2020 American Music Awards」では授賞式の大トリで見事なフィナーレパフォーマンスを見せつけてくれた。しかしここでも受賞は「Favorite Social Artist」「Favorite Duo or Group - Pop/Rock」に留まり、主要部門へはノミネートすらされていない。繰り返すが、受賞自体はもちろんめでたい事なのだが、要するに、今BTSは視聴率を稼ぐのにはうってつけのアーティストと言っても過言ではないだろう。世界中に広がったBTSファン「ARMY」がこぞって授賞式を観にくる。そのためBTSは授賞式の後半にパフォーマンスする事が多いが、それでも音楽賞の主要部門にはノミネートすらされていない事に違和感を感じずにはいられない。グラミー賞ノミネート発表前、『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』のホストであるJimmy Fallonは「僕が思うに、今回はノミネートされると思う」と言及し、『Variety』『Esquire』『Rolling Stone』といったBTSを特集した多くの雑誌も、BTSグラミー賞にノミネートされない事について批判的なコメントを寄せていた。

variety.com

www.huffingtonpost.jp

そして第63回グラミー賞ノミネートが発表されると、BTSは「最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンス部門」のみのノミネートに留まった。個人的には、「楽曲の完成度」「全編英語詞」「人気度」「メッセージ性」「多様性」という条件を兼ね備えている『Dynamite』はグラミー主要4部門のひとつでもある「最優秀楽曲賞」にノミネートされていても良かったのでは、と思わずにはいられない。グラミー賞が「多様性と包括性」をうたうのであれば、尚更だ。グラミーの変化は、とてつもなくゆっくりだ。しかし、たとえ1部門であったとしても、BTSはノミネートされた。それが「快挙」であり、「イエロー」アーティストにとって今後の大きな一歩であることには間違いはないと思う。2021年のグラミー賞はステージパフォーマンスもこれまでとは違った形になるだろうが、何にしてもBTSのパフォーマンスが披露される事に期待したい。そして主要4部門にノミネートすらされないのであれば、せめて「最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンス部門」を受賞してほしい。そんな風に思えてならない。

 

 

SONG LIST 02. 『IDOL』

「自分を愛する事」で再び戦いに挑む、祝祭の歌

BTSHIPHOPグループだ。ラッパーが3人(RM、SUGA、J-HOPE)、メロディーを歌うヴォーカルが4人(JIN、JIMIN、V、JUNG KOOK)の7人で構成されている。ラッパー3人は自分の歌うラップを自分で書いているし、楽曲もメンバー自身が関わる事が多いため、BTSは「自分達で言葉を発信するアイドルグループ」と言っていいと思う。HIPHOPやラッパー達の活躍がBillboardチャートの上位を占めるようになって早数年。彼等の楽曲が世界で受け入れられるのは自然な流れのようにも思えるが、HIPHOPジャンルの中においてBTSは未だ「K-POPアイドル」の枠にはめられ軽んじて見られる事は少なくないように感じる。また、BTSはデビュー当時、韓国のHIPHOPファンから「アイドルがHIPHOPをする」という事に関して批判的な反応が多く、「すぐ消える」などとまで言われていたという。彼等はデビュー当時から様々な方向からの「逆風」にさらされていた。

2020年9月29日からアメリカのレイトショー『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』で一週間まるまるBTSが出演するという「BTS WEEK」が始まった。その初日のオープニングを飾ったパフォーマンスが上記の『IDOL』だ。韓国の景福宮勤政殿の前で、韓国の伝統衣装とスーツを組み合わせたような衣装を身に纏い『You can call me artist / You can call me idol / どんな呼び方だって構わない』と歌い出す。トラップラップとEDM、南アフリカのハウス、韓国の伝統楽器を用いたサムルノリなど様々な要素を織り交ぜたサウンドは祝祭感に溢れているが、歌う彼等からは「これから戦いに出る」かのような勇ましさすら感じる。

『IDOL』が2018年8月にリリースされた当初、MVがYouTubeで「公開から24時間で史上最も視聴された楽曲」となった。(現在は『Dynamite』が24時間で1億110万再生でその記録を破っている)韓国の様々な伝統芸能がアフリカを思わせる極彩色の世界で展開され、いかにも“アイドル的”なカラフルな衣装のメンバー達が踊り歌う。『自分を誇りに思うよ  俺は自由だ / 後ろ指でも指せばいい  俺は何も気にしない / 俺の悪口を言うお前の理由がなんであれ  俺は俺自身を理解してる  自分の望むものを知ってる / 俺は自分のすべきことをする  だからそっちは自分のことだけ考えてろよ / 俺が自分自身を愛すことを、お前には止められない(You can’t stop me lovin’ myself)(※意訳)』と。

この頃には既に高い人気を得て世界を飛び回っていた彼等だが、その中で彼等がどれだけの「後ろ指」を指されたのかは計り知れない。2018年の年末に香港で行われた『Mnet ASIAN MUSIC AWARDS(MAMA)』にて3年連続となる「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」を受賞した彼等だが、受賞スピーチでは「今年を振り返ると、僕たちは年の最初から精神的に辛い思いをしていました。僕たちの中で、解散することも考えました。」とメンバー最年長のJINが涙ながらに語った。前年の2017年は『Billboard Music Awards』の「トップ・ソーシャルアーティスト賞」を受賞する活躍をし、過密なスケジュールや慣れない海外でのテレビ出演などが増える一方、人気に反発するかのように沸き上がる批判や脅迫、冷笑は少なくなかったという。(概要を調る程)それらに対するプレッシャーや精神的・肉体的疲労は想像を絶する。そんな中発表されたのが、この『IDOL』という楽曲だ。MAMAでのJINのスピーチは次のように締められる。「でももう一度気持ちを引き締めて、よい結果を出すことができて本当によかったです。立ち直らせてくれたメンバーに、そして僕たちを愛してくれるARMYたちに感謝します。」

どんなに周りから「後ろ指」をされようが戦っていく、と決意した彼等の戦い方は「自分自身を信じ、愛する」という「自己肯定」だった。自分自身を愛する事で「後ろ指を気にしない自分になる」という決意。本作はリパッケージアルバム『LOVE YOURSELF 結 'Answer’』のタイトル曲。「本当の愛は自分を愛することから始まる」という自己肯定のメッセージをアルバムを通して伝えている。『IDOL』は、一度は諦めかけた戦いに再び挑むための祝祭の歌。『You can’t stop me lovin’ myself』と叫べば、BTSが『オルッス チョッタ!(わっしょい! その調子だ!)』と褒めてくれる。彼等はIDOLだ。

 

 

SONG LIST 03. 『ON』

進み続ける、という意志表明

BTSの沼に落ちる前から「BTSはダンスがすごいグループ」といった印象を持っていたものの「本当にすごい」と感嘆したのは2020年2月に前述の『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』にて披露された『ON』のパフォーマンスを見た時だった。早朝3時の無人のニューヨークGrand Central駅にて撮影されたこのパフォーマンスは、ノーカットで撮影されたものだという。美しい駅構内で繰り広げられる激しいブレイクダンスと、国際色豊かなマーチングバンド&バックダンサーのかけ声も相まって、迫力のある美しいパフォーマンスになっている。後に「BTS WEEK」にてホストのJimmy FallonとBTSがこの時のことを振り返っているが、RMがJimmyから「これがどれだけ凄い事かわかるかい?」と声をかけられた事が印象深かったと語っている。

※ちなみに流暢な英語を披露しているRM以外のメンバーは英語を勉強中とのこと。勉強した英語を披露している姿もまた良い。話をしている様子からはメンバーの兄弟さながらの仲の良さも見て取れる。

『ON』は2020年2月にリリースされたBTSの4枚目のアルバム『MAP OF THE SOUL : 7』のリード曲として発表された。このアルバムをひっさげ、BTSは4月からアメリカ・カナダと欧州、日本を含むワールドツアーを予定していたが、パンデミックの影響を受け全公演がキャンセルとなってしまった。前述のパフォーマンスもライブステージで披露される予定だったが、彼等は未だこのパフォーマンスをファンの前で披露する事ができていないことを残念がっている。

ところで『ON』はマーチングバンドのサウンドが印象的な曲だが、初めて上記のビデオを見た時に気になった振り付けがあった。ダンスの途中、一列になったメンバーが左右に去って行く。(「The Tonight Show」のパフォーマンスのほうがよく見える)最年長JINから始まり最年少JUNG KOOKで終わるこの列は、メンバーの年齢順だ。ファンであれば、この振り付けに意味がある事を感じ取ることができる。このようなパンデミックの状況にならなければ、おそらくワールドツアー後にBTSメンバー最年長のJINは兵役に入っていたのではないか、というのが大半のファンの予想ではないかと思う。男性K-POPグループにとって切り離せないのが徴兵制だが、基本的に28歳の誕生日を迎えるまでに服務に就かなくてはならないため(※2020年12月30日現在の情報)、JINの年齢は既にギリギリだったのだ。

『誰が何を言っても理解できない  一歩足跡を残せばそのぶん伸びる影 / 眠りから覚めてここはソウルかニューヨークかパリか  起き上がるとふらつく身体 / 怖くない訳ないだろ  大丈夫な訳ないだろ  それでも俺は知ってる  必死に進む  狂いたくないなら狂わなければ / 自分を抑えられない  俺は戦士だから  自ら囚われの身へ / 真っ暗な深淵の中へ喜んで沈む  俺が知ってるのはただ進む進む進むことだけ(is just goin’ on & on & on & on) / 痛みを持ってこい(Bring the pain)(※意訳)』。歌詞は世界に挑み、批判や怒濤のスケジュールに疲弊しつつもがいているといった内容とも取れるが、個人的には「(この後に空白の期間があっても)俺たちは進み続けるよ。(だから待っていて)」というメッセージのようにも感じられた。アルバム『MAP OF THE SOUL : 7』の「7」にはBTSが「7人のメンバー」である事への思いが込められている。

現在、BTSと兵役に関しては様々な議論がされている。韓国国会は2020年12月1日、JINの誕生日(12月4日)を目前にして兵役法改正案が正式に可決された。「世界的な活躍が認められた大衆芸能分野のアーティストが、軍隊への入隊を30歳まで延期できるようにする」というもので、要するにBTSが7人で活動できる期間が2年延長された、ということになる。しかし、このような「様々な議論」はあくまで彼等自身ではなく「周り」が言っていることだ。ましてや韓国以外の国の人々が口出しできる話ではないのでは、と私は思ってしまう。(※ 以下追記) また、JINは兵役について「大韓民国の青年として兵役は当然だと考えているし、毎回申し上げているように国の命令があればいつでも応じる。メンバーたちとよく話すが、兵役の義務に皆応じる予定である。」と繰り返し語っている。(『BE』リリース記念記者会見、他)今後彼等がどのようなスケジュールで活動するかは、彼等にしかわからない。しかし、もしそのタイミングが来たとしたも、私は待ち続けたいと思う。彼等は「進み続ける」と力強く宣言してくれているのだから。

【※ 2021年11月 追記】この記事を書いた当時、私は兵役の始まりの歴史について知らないままにこのような考え方をしていました。なぜ「兵役」というものがあるのか、無知でいられたのか。反省と共に現在勉強をしていますが、こちらの文章は当時の自分の考えの記録として残すことにします。

 

 

SONG LIST 04. 『Boy With Luv (feat. Halsey)』

世界のアーティストとのコラボレーションと、BTSが歌うジェンダーニュートラルな「愛」

『Dynamite』が発表される前のBTSの代表的な楽曲といえば、Halseyとのコラボレーションも話題になった『Boy With Luv』だ。BTSとHalseyは2017年の「Billboard Music Awards」(BTSがトップ・ソーシャルアーティスト賞を受賞した年)にバックステージで出会い意気投合。その後も関係は続き、「一緒に何かしよう」とコラボレーションが実現したという。

2019年4月に発表された本作はBTSの6枚目のミニアルバム『MAP OF THE SOUL: PERSONA』のタイトル曲。『Dynamite』とも似たパステル調のアメリカンなセットの前で、ピンクの衣装のBTSと髪をピンク色に染めたHalseyが楽しげに歌って歌って踊る姿が印象的なMV。BTSメンバーのVが髪を綺麗なブルーに染めているが、ブルーヘアーといえばHalseyのデビュー当時のトレードマークだ。個人的には元々Halseyのファンだったのでこの曲を聴いていたけれど、思えば当時からあまり「K-POP」という認識で聴いていなかった気がする。『どんな一日だった?教えてよ 何が君を幸せにするの?メールして / 僕の事を聞いてよ あの空を高く飛んでる あの時君がくれた翼で / ここはもう高すぎる 君と眼をあわせたいのに / 君は僕を速く飛べるようにした 君が僕を「愛を持った少年」にしてくれるんだ / 一瞬の愛よりも強いものが欲しい 愛は強いものじゃない 「愛を持った少年」よりも(Love is nothing stronger. Than a boy with luv.)(※意訳)』歌詞はファンとの関係性と「愛」について。「愛を持った少年」とは、おそらくBTSメンバー達の事であろう。

BTSが「愛」を歌う時 、近年の作品においては「自分自身を愛する事」もしくは「ファンへの愛」という「Love」の歌い方がほとんどだ。BTS楽曲の歌詞を調べはじめた頃に気がついた事だが、近年の楽曲には所謂「アイドルとの疑似恋愛的な歌詞」がほぼ無い。(初期作にはあるが)使われる単語も「She」「Her」という性別を断定するものではなく「You」が使われる。ジェンダーニュートラルで、異性愛でも恋愛至上主義でもないような作詞がおそらく意図的にされており、ジェンダーに関係なく共感できるような内容になっている。その意図的さがわかるのが、BTSにとって2度目のBillboard Hot100 1位獲得曲となったJason Deruloとのコラボレーション曲『Savage Love(BTS Remix)』の例だ。

元々の歌詞は「Girl, you could use me」となっているが、BTS RemixでJUNG KOOKが歌う際に「Girl」を取って歌っていることがわかる。この「Girl」が取られることで、歌に共感できる人がぐっと増える。BTSには男性ファンも多いが、その理由はジェンダーに関係なく受け入れやすい歌詞にもあるように思う。

BTSはHalsey以外にも多くの有名ミュージシャンともコラボレーションを果たしている。Steve Aoki(『MIC Drop (Steve Aoki Remix)'』『The Truth Untold (Feat. Steve Aoki)』)、Ed Sheeran & Lauv(『Make It Right (feat. Lauv)』)、SIA(『ON (Feat. Sia) 』)、The Chainsmokers(『Best Of Me』)、Nicki Minaj(『IDOL (Feat. Nicki Minaj)』)、Troye Sivan(『Louder than bombs』)、Charli XCX(『Dream Glow (ft. Charli XCX)』)、Mura Masa & Zara Larsson(『A Brand New Day』)、Juice WRLD(『All Night』)がBTS楽曲に参加。

またプロデューサーとして参加しているのがMNEK(『Paradise』)、Elohim(『We are Bulletproof : the Eternal』)、Brasstracks(『Dis-ease(병)』)、Cosmo's midnight(『Fly To My Room(내 방을 여행하는 법)』)と、人選がたまらない。メンバーのソロ活動には、HONNE(RM 『seoul (prod. HONNE)』)、Becky G(J-HOPE『Chicken Noodle Soup』)、MAX(SUGA(Agust D)『Burn It (feat. MAX)』)も参加している。

またフューチャリングとしての参加曲も多く、Halseyは自身のアルバムにSUGAをフューチャーした『SUGA's Interlude』を入れた。他にもSteve Aokiの『Waste It On Me』、Lauvの『Who (feat. BTS)』Fall Out Boy『Champion (Remix) ft. RM of BTS』、HONNEの『Crying Over You ◐ (feat. RM & BEKA)』、MAXの『Blueberry Eyes (feat. SUGA of BTS)』、LIL NAS Xとは『Old Town Road』にRMが参加(『Old Town Road (Seoul Town Road Remix) feat. RM of BTS』)した事により、前述の通り2020年のグラミー賞パフォーマンスステージにもゲスト参加した。

個人的には元々好きで聴いていたアーティストが次々とBTSとのコラボレーションを果たして行くので「またBTSだ…。あれ、まただ…。」などと驚いていた時期もあった。しかし正直な所、当時はなぜ自分の好きなアーティスト達が彼等を支持するのかを当時は良くわかっていなかった。今ならわかる。彼等が作る楽曲や発信するメッセージの良さ、そして「愛」の描き方は、ニュートラルで、個人的で、普遍的なものだ。上記で挙げたコラボレーションアーティストを見ても、クィアアーティストとのコラボレーションが多いことも特徴のひとつのように思う。BTSはLGBTQ+の権利向上へのサポートを公に表明しているが、こうした姿勢も世界のアーティスト達から信頼と評価と愛を得ている理由のひとつなのだろうと思う。

 

 

SONG LIST 05. 『Black Swan』

芸術的なBTSのダンスと、アーティストの苦悩

BTSのMVを見続けていると、ふと目に留まるメンバーがいた。ヴォーカル兼メインダンサーのJIMINだ。JIMINのダンスの芸術性の高さが特に発揮されている『Black Swan』のMVは、アメリカのLos Angeles Theatreで撮影された。壇上に佇むJIMINのソロカットから始まり、合間に差し込まれるソロダンスも印象的で、BTSにおける彼の存在感の大きさを感じる。以下のビハインドシーンも圧巻だ。ダンスには詳しくない私でも、立ち姿、1つ1つのポージング、抑揚がありつつも流れるような滑らかな動き、指先から足先に至るまで美しいと感じる。儚さと力強さを両方兼ね備えているかのような、白と黒の白鳥。氷の上でもないのに、どうしてこんなにもくるくると廻れるのか、不思議でならない。

JIMINは釜山芸術高等学校 現代舞踊科に首席で入学した実力の持ち主だが、その実力はK-POP界にとどまらず世界のダンサー達をも唸らせているようだ。最近では『白鳥の湖』で有名なイギリスのコンテンポラリー・ダンス演出・振付家マシュー・ボーンがJIMINのダンスを「♡」付きでツイート。

また、先日行われた『2020 Melon Music Awards』のパフォーマンスでは『Black Swan』パートのJIMINとJUNG KOOKによるパ・ド・ドゥ(下記動画の1分40秒ごろ)に多くのバレエファンが熱く反応した。さらに後半の『Dynamite』パートではMichael Jacksonオマージュのパフォーマンス(15分27秒ごろから)も披露され、マイケルの甥タージ・ジャクソンが「もちろんとても気に入りました。Thank you BTS.」と反応し話題になった。BTSのダンスが様々な方向から注目を集めているのがわかる。

 

『Black Swan』のMVにはArt Film performe版と題したアートフィルムバージョンも存在する。オーケストラアレンジの『Black Swan』にあわせ、スロベニアの現代舞踊チームMN Dance Companyの7人のダンサーが美しいパフォーマンスを披露している。

フィルムのオープニングに映し出されるのはアメリカの舞踏家、Martha Grahamの名言だ。

“A dancer dies twice—once when they stop dancing, and this first death is the more painful.”  

「ダンサーは二度死ぬ。一度目は踊るのを辞めたとき。ダンサーにとってこの最初の死は、本当の死よりも苦痛だ」

『Black Swan』の歌詞は、この「ダンサーは2度死ぬ」の言葉からもヒントを得ているような詩的な内容だ。『音楽を聴いても心が動かない / あぁ これが俺の最初の死なのか / 俺はいつも怖かったんだ / 全ての光が沈黙する海 また道に迷った俺の足を掴んで / 今俺を殺してくれ  俺の声は聞こえているのか(Killin’ me now, Do you hear me yeah) / やりたいことをやれ(Do your thang) / 俺のやりたいことって?(What's my thang?) / 俺のやりたいことは何なんだ 教えてくれ(What's my thang? Tell me now.)(※意訳)』歌詞に「白鳥」の描写が無いことから、個人的にはタイトルの『Black Swan』は「ブラック・スワン理論」から取っているのではと推測している。

ブラック・スワン理論
「ありえなくて起こりえない」と思われていたことが急に生じた場合、「予測できない」、「非常に強い衝撃を与える」という理論。とりわけ予測できない金融危機と自然災害をよく表している。(Wikipedia)

SUGAはこの曲を「音楽を聴いても心が動かない、という状況に陥る事を想像しながら書いた」とコメントしている。「The Rolling Stone India」のインタビューではJIMINが「以前は、自分のしていることに対する純粋な熱意が消え、タイトなスケジュールや責任に疲れ果てたあげく、いつかは“仕事”としてしか捉えられなくなることに恐怖を感じていました。」と率直なコメントを寄せている。

www.excite.co.jp「音楽を聴いても、ダンスをしても心が動かない」という、アーティストの「最初の死」。それを「ありえなくて起こりえない」事としながらも7人が白い衣装から黒い衣装になっていくMVには感傷的にならざるを得ないが、前述のJIMINのコメントが過去形になっている事に、今はほんの少しの安心感を得ている。なんにしても、彼等が辛い状況に追い込まれる事ができるかぎりないようになってほしいし、それを祈らずにはいられない。

 

 

SONG LIST 06. 『Spring Day』

BTSは社会問題を「自分事」として捉えている

2017年、BTSメンバーは所属事務所のBig Hitエンターテインメントと共に「セウォル号惨事家族協議会」に1億ウォン(約1000万円) の寄付をした。7人のメンバーたちは1000万ウォンづつ寄付したという。Big Hitエンターテインメントは「寄付は静かにすることだと思い、知らせずに行った。アーティストたちが決定したプライベートなことなので、事務所でコメントすることではないと思う。」とコメント。その後、2017年2月にリリースした2ndリパッケージ・アルバム『YOU NEVER WALK ALONE』のタイトル曲として発表されたのが『Spring Day』だ。先日、韓国のハンギョレ新聞社よりセウォル号犠牲者遺族へのインタビュー記事が公開され話題となった。

japan.hani.co.kr

セウォル号惨事6周年を控え、セウォル号犠牲者遺族にインタビューをする途中、彼らの口から意外な名前を聞きました。2014年のセウォル号惨事から200日ほど経った頃、「若い人たち」が遺族を訪ねてきたそうです。遺族たちの説明によると、彼らは礼儀を尽くして焼香をし、遺族を慰めただけでなく、家族協議会宛に1億ウォンを寄付したと言います。遺族たちを訪れたのは、当時デビュー2年目のアイドルグループ、防弾少年団BTS)でした。』(ハンギョレ新聞社記事より)

セウォル号事件」は2014年4月16日、修学旅行中の高校生を乗せた韓国の大型旅客船「セウォル」が転覆・沈没した事故である。乗員・乗客や救助にあたった作業員を含めて死者は300名以上。亡くなった高校生達は、BTS最年少メンバーJUNG KOOKと同い年の子ども達だった。

近年の韓国文学の話題を見聞きして「セウォル号事件」の名前を聞いた事はあったものの、詳しい事は知らなかった。しかし『Spring Day』のMVもこの事件がモチーフになっているという話を聞き、事件について調べ、言葉を失った。事件を知ってからMVを見ると、それらしいモチーフをいくつか見つけることができる。海に打ち上げられたスニーカー、荷物はあれど誰もいない車内、大量の若者のものらしき洋服、夜のメリーゴーランドのシーンでたなびいている黄色いリボンはセウォル号事件の犠牲者を追悼するシンボルだそうだ。また、ドミトリーらしき建物の看板の「Omelas」の文字も、ファンの間では話題になった。「Omelas」はアーシュラ・K・ル=グウィンによる1973年発表のSF短編小説『オメラスから歩み去る人々(The Ones Who Walk Away from Omelas)』から取られているという。争いの無い「完璧な理想郷オメラス」は、ひとりの子どもの犠牲によって成り立っている…といった物語だ。BTSは長らくこの曲に関しての「明確な言及」はしてこなかったが、先日の発売されたUS版『Esquire』のインタビューにてこの曲の真意について質問され、JINは「おっしゃるとおり特定の悲劇がテーマになっていますが、これは願いの曲でもあります」と答えた。

www.esquire.com

『どれだけ待てば  いくつ夜を数えたら  君に会えるのかな / 朝はまた来るから  どんな暗闇もどんな季節も  永遠ではないから / 桜が咲いて、この冬が終わる / あと何日かの夜を数えたら  会いに行くよ  迎えにいくよ / また春の日が来る時まで  そこで少し待っていて(※意訳)』確かに、『Spring Day』はこの数ヶ月の間では「パンデミックで会えないBTSとファン」の心情に重ねられてパフォーマンスされる事も多い一曲だ。2020年9月21日、Tiny Desk ConcertシリーズにBTSが出演したが、最後に歌われたのが『Spring Day』だった。バックバンドと共に行われたこのパフォーマンスは、これまでTVパフォーマンスとはまた違ったライヴ感のあるもので、多くのARMY達がライヴを懐かしむ感想で溢れた。

BTSというと「数々の寄付活動や支援を行っている」という印象がファンになる前からあった。最近のものだけでもBlack Lives Matter運動への1億円の寄付、パンデミックの影響を受けるコンサートスタッフへの100万ドルの寄付、韓国の国立現代美術館に1億ウォンの寄付、社会的弱者層の児童支援へ1億ウォンの寄付…などなど、あげればきりがない。BTSは自分たちが行う支援について「自分たちが貰ったものをお返ししているだけ」だと語る。こういった考えに至るまでに、彼等にはどのような「体験」があったのか…と考えているうちに、一つの記事を見つけた。

gendai.ismedia.jp

BTSは2014年に出演した「防弾少年団アメリカンハッスルライフ」にて、HIPHOPアーティスト・チューターによるアテンドで、LAのスラム街スキッド・ロウでホームレスたちに食料を配っている。字幕では「HIPHOPの最も重要な側面を体験し、恩返しをします」と語られている。

『チューターはホームレスに食料を配りながら、彼らに社会に還元することの意味を教えている。チューターがホームレスに何か知識と助言を与えてくれないかと話すと、「他の人になろうとせず、自分を見失わないように自信を持って生きることだ」「落ちるのはあっという間で、誰にでも起こりうることだ。だからこそ、自分たちがどこから来たのか。そのルーツを忘れてはいけない」――様々な言葉がホームレスたちから聞かれた。当時10代後半から20代前半だった彼らは、この経験を衝撃的で忘れられない出来事だったと口をそろえて話しており、今の彼らを作った要因の1つになったのではないだろうか。』(現代ビジネス記事より抜粋)

まだ「あどけない少年」そのもののメンバー達が真摯にホームレスの人々の声に耳を傾けている姿が印象的だ。また「他の人になろうとせず、自分を見失わないように自信を持って生きることだ」「落ちるのはあっという間で、誰にでも起こりうることだ。だからこそ、自分たちがどこから来たのか。そのルーツを忘れてはいけない」というホームレス達のメッセージは、今BTSが伝えている『Love Myself』にも繋がるような気がしている。彼等もまた後ろ指を刺される経験もしてきたが故、「誰にでも起こりうること」という言葉は社会問題を「自分事」として捉え、寄付や支援といった社会活動をする姿勢に影響を与えたのかもしれない。

12月10日、米TIME誌は2020年の「エンターテイナー・オブ・ザ・イヤー(今年のエンターテイナー)」にBTSを選出。あらゆるレコード新記録やパンデミックの最中におけるライブストリーム配信等が評価されると共に、BLMなど社会問題への貢献やメンタルヘルスの問題への言及、LGBTQ+の権利向上へのサポートを公に表明していることなども評価された。

time.com

www.huffingtonpost.jp

JINはTIME誌のインタビューにてBLM運動への寄付について「これは政治の問題ではなく、人種差別の問題でした。私たちは、誰もが尊重される価値があると信じています」と語った。『Spring Day』はこうした彼等の思いが込められた、出発の曲だったのかもしれない。

 

 

SONG LIST 07. 『HOME』

BTSとファン「ARMY」との相互関係

個人的にお気に入りの一曲『HOME』は、2019年4月にリリースされた6thミニアルバム『MAP OF THE SOUL: PERSONA』に収録されているアルバム曲だ。残念ながらMVは無いのだが、『The Tonight Show』で披露されたパフォーマンスはMVさながらで見ていてワクワクしてしまう。STAY HOMEな世の中だが、明るく楽しいパジャマパーティーを繰り広げるBTSにほっこりしてしまう。しかし、歌詞は「ほっこり」に留まらない内容だったりする。

『望んだ全てのものを手に入れても、どこか寂しい 成し遂げた者が感じるもの / 君がいる場所、きっとそこが僕の家(Mi Casa) / 君がいれば僕は満たされる / 言葉を交わさなくたって落ち着けるんだ / 君さえいればどこだって僕の家になる(※意訳)』サビで歌われる「Mi Casa」はスペイン語で、直訳すると「私の家」という意味だが、「Casa」には「家」の他にも「家族、故郷」といった意味も持つ。つまり「帰る場所」だ。タイトルは英語の「HOME」にも関わらず歌詞が「Mi Casa」になっているので、その意味も含めて歌詞を訳すと「君がいる場所、きっとそこが僕の帰る場所」と訳した方が近いかもしれない。RMはこの曲について「この曲はARMYのことです」と語っている。

『HOME』の歌詞を見て、もう一曲思い出した歌詞がある。2018年5月リリースの3rdアルバム『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』に収録されている『Magic Shop』だ。

『自分が自分であることが嫌になった日  永遠に消えてしまいたいと思った日 / ドアを一つ作ろう  君の心の中に / その扉を開けば、この場所が待っているよ  信じていいんだよ  君を癒してくれるMagic Shop / 温かいお茶を飲みながら あの天の川を見上げながら / 君は大丈夫だよ  ここはMagic Shop / 君のすべての答えは  君が見つけ出したこの場所に / 君の天の川に  君の心の中に(※意訳)』BTSはリスナーの心の中に『Magic Shop』を建てる。それは『HOME』の歌詞にもある「帰る場所」でもあるのかもしれない。少々宗教めいている、と思われるかもしれないが、私はこの『HOME』と『Magic Shop』に大きな癒しを得た。心の中にBTSが「居る」と考えるだけで穏やかな気持ちになった。「この気持ちは一体なんなのだろう。」と不思議な気分だった。

BTSに「ARMY」と呼ばれる熱いファンがついていることは、私がARMYになる前からニュースなどでよく見かけていた。正直にいうと「なかなか物騒なファンネームだな」というのが第一印象だった。しかし、話題を見聞きするほど、その印象は変わっていった。例えばBTSがBlack Lives Matter運動への寄付をした際、ARMY達も彼等の支援額1億円と同額の寄付金を集めて寄付したという。それは、BTSがそのようにファンに呼びかけた訳では決してない。彼等の支援に対し理解をしようと考え、行動を起こすファンが自然に増えていき、自発的に支援活動を行なっているに過ぎないのだ。この理想的にポジティブなアーティストとファンの関係性、連帯には驚かされる。

BTSの沼に片足を突っ込んだころ、私はARMYの友人に連絡をとった。彼女からは何度もBTSプレゼンを受けていたものの所謂「沼落ち」には至らなかったのだが、「BTSにハマったかもしれない。」というLINEを送ったら、友人は驚きの反応と共に様々な情報を与えてくれた。Weverseというアプリがあり、アーティストの投稿や『Run BTS!』というバラエティ番組(現在EP.122まである。これがまたとても面白い。)が無料で見られること、V LIVEというアプリでは時々メンバーがライブ配信をするということ、最新情報はTwitterの情報アカウントをフォローすると良いという事、メンバーの情報や呼ばれ方、メンバーを表す絵文字について等々…様々な情報を教えてもらった。会社の韓国出身の社員さんともBTSをきっかけに仲良くなって、メンバーがパッケージに印刷されているビタミン剤を分けてくれたり、私が落ち込んでいた時には推しの画像を送ってくれたりした。10月10日・11日と行われたライブストリーミングBTS MAP OF THE SOUL ON:E』のあと、前述のARMY友人と韓国料理屋で盛り上がっていたところ、お店のオーナーの奥様らしき方から「もしかしてライブ見ましたか?私もさっきまで見てました!」と声をかけられ意気投合。BGMをBTSメドレーに変えてくて、マッコリを一本サービスしてくれたり、韓国のスティック粉コーヒーをお土産にくれたりした。…なんというか、私はBTSのファンになって1ヶ月でARMYの優しさに心底癒されていた。所謂よくある「にわか来んな」的なファンムードが一切ない。「BTSいいよね!ようこそ!」という迎え入れてくれる温かなムード。友人に「私もARMYになりたい」と言ったら、「もうとっくにARMYだよ!」と笑われた。

『HOME』を聴いていると、私はARMYになりたての頃を思い出す。「ようこそ!」と『HOME』の扉をあけてくれたのは友人であり、世界のARMYであり、BTSである。日本版ファンクラブの会報誌にて、「BTSはどんな存在?」という質問に対しRMは「一番長く一緒にいる新しい形の家族です。2番目の家族とも言えます。」と答えていた。それを読んで、BTSドキュメンタリー映画でどこかの国の女の子がBTSとARMYを「Big Family」と表現していたことを思い出した。言語も住む場所も肌の色も年齢もジェンダーも宗教も関係ない。ただ「BTSが好きで、応援している」というだけでARMYだし、それは巨大なファミリーのようなものだ。「自分自身を愛そうと努力をし、より良い世界を目指している仲間達」と言ってもよい気もする。私はARMYにシスターフッド的なものを感じているのだが、BTSファンは女性だけではないし、なにかもっと近い言葉はないものかと思っている。今の所、ARMYはARMYとしか言いようが無い。

世界のARMYはそれぞれのイマジナリー『HOME』に集う。BTSが好きなのであれば、その『HOME』はあなたの心の中に建てられるのだ。それは「私はひとりではない。」という、おまじないのようなものに感じられた。

 

 

SONG LIST 08. 『21st Century Girls』

失敗と反省から得るもの。フェミニズムBTS

MVが無いのでハロウィン企画で撮られたこんなわちゃわちゃとした動画しかないのだが(個人的にVが『カードキャプターさくら』の李小狼のコスプレをしているのが大変気になる。なぜこのチョイス。) 『21st Century Girls』は2016年10月に発売された2ndフルアルバム『WINGS』に収録されたアルバム曲。今回紹介する楽曲の中では一番古く、タイトル曲でもない曲だが、歌詞はこんな内容だ。『君には価値がある 完璧だ / 資格がある  ちゃんと自覚しなきゃ / 20世紀少女たちよ、君の人生を生きたらいい / 21世紀少女たちよ、何も気にしなくていい  それは新たな女性像だ / 宣言しろ  自分は強いと  完璧だと / 自分を卑下するな  周りの人間に合わせたりするな  君は十分美しい / All my ladies put your hands up / Now scream!(※意訳)』

この曲が発表された2016年は、今ほど「フェミニズム」という単語が世界で話題になる事が少なかった頃だと思う。にもかかわらず、HIPHOPをベースにしたアイドルが2016年の時点でこんなド直球女性エンパワメントソングを歌っていた事に、正直驚いた。2017年の映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの告発から、#MeToo運動をはじめ急速に話題が増えたように感じるフェミニズム的思考。(もちろん遥か昔からフェミニズムがあることは既知として)「韓国のフェミニズム」と言われて思い出すのはチョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』だが、本書の発売は2016年10月。ちょうど『21st Century Girls』が収録されたアルバムが発売された頃と重なる。なぜ、彼等はこんなにも早い段階でこのような女性エンパワメントの歌詞を書くことができたのか。ふと、私はリーダーのRMが国連でスピーチをした事を報じた記事を思い出した。その記事には『BTSの初期作に「女性差別的な歌詞」が含まれている、という批判がファンを含む女性達から起こり、それに対して事務所が検討、認め、謝罪をした』といった事が書かれていた。私がBTSの楽曲を聴きはじめたきっかけは、この記事だった。

2018年9月にRMが国連で行なったスピーチは、とても印象的だった。英語でスピーチをするその堂々とした姿も見事だが、なにより内容が素晴らしく、当時BTSの楽曲を聴いた事はなかったものの彼のスピーチには心を打たれた。

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(抜粋)『あなたの名前は何ですか? 何にワクワクして 何に心が高鳴るのか、あなたのストーリーを聞かせてください。あなたの声を聞きたい。あなたの信念を聞きたい。あなたが誰なのか、どこから来たのか、肌の色やジェンダー意識は関係ありません。ただ、あなたのことを話してください。話すことで、自分の名前と声を見つけてください。僕はキム・ナムジュン。 BTSのRMです。アイドルです。韓国の小さな町で生まれたアーティストです。他の人と同じように、人生でたくさんのミスをしてきました。たくさんの失敗も恐れもあるけれど、自分を力いっぱい抱きしめることで、少しずつ自分自身を愛せるようになりました。あなたの名前は何ですか?自分自身のことを話してください。』(ぜひ動画にて全文を)

私の読んだ記事では、このスピーチの「たくさんのミス」についての説明で「女性差別的な歌詞」の件が挙げられていた。「自分の失敗」について国連でスピーチをする、ということにどれほどの勇気がいるだろう。当時私はこのスピーチを聴いて「この人たちは誠実なのだろうな」と感じた。失敗をしたとしても、それを精一杯反省し、受け止め、成長することができる人たちなのだろうと。(余談だが、例のTシャツの件についても所属事務所が大韓民国の原爆被害者団体及び日本原水爆被害者団体協議会に対して公式に謝罪を表明。その後、原爆被害者団体はこの謝罪を受け入れている。)

この記事を読んで、私は同じ頃に話題になっていた「HIPHOPミソジニー女性嫌悪)」に関する以下の記事を思い出していた。HIPHOPをあまり聴かない私でも、思い当たる節はたくさんあった。私の好きなロックジャンルでも女性蔑視的表現は正直ごまんとある。が、この記事を読んで確かにHIPHOPにおけるミソジニー表現は、読んでいてなかなか辛いものがあった。

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本来ならば食い合わせの悪いであろう「HIPHOP」と、女性ファンが多い「アイドル」というジャンルを併せ持つBTS。実際、問題になったとされる初期作品の歌詞を調べてみると、「女は最高の贈り物」といった『背伸びをした青臭さを含む、マッチョさとトロフィーワイフへの憧れ』といったような内容だった。現在の彼等の歌詞に感銘を受けている私は「こんな時期もあったのね…」と多少苦笑いをせざるを得ない。しかし興味深いのは、このような内容に対して批判の声を挙げたのは「BTSのファンを含んだ」女性達だったことだ。自分の好きなアイドルが世間からバッシングを受けたのであれば、その批判に対し守りに入ってしまいそうなところだが、ARMYもまた、このような歌詞を批判したという。私はこの話を知り、韓国人女性達の成熟度に感嘆してしまったが、後に「声を上げる女性」が増えたきっかけになったという2016年5月に起こった「江南駅殺人事件」について知った。

BTSは「防弾少年団(방탄소년단)」の名前で活動している。(海外展開のための英名がBTS。韓国語での読み方は「バンタンソニョンダン」※バンタンとも略される)グループ名には「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」という意味がこめられており、初期作品は特に青少年に対する世間の抑圧への反抗、といった内容の歌詞が多い。そんな自分たちが「偏見・差別をする側」の歌詞を書いていたことにファン達から気づかされたというのだから、それはどんな気持ちだったろう。ファンとしては容易に彼等の「落ち込む姿」が想像できる。しかし、それでもARMYは声を挙げた。それはファンからの「信頼と愛」そのもののように、私には感じられる。現在よりも「ポリティカルコレクトネス」という言葉が浸透していない時代に、その批判を真摯に受け止め、反省し、謝罪し、おそらくフェミニズムに関しての勉強をしたうえで発表したのが『21st Century Girls』だったのだ。RMは自分達の書いた歌詞を「女性学の専門家にチェックを受けている」ということも発言している。

私は『21st Century Girls』の『20世紀少女たちよ、君の人生を生きたらいい / 21世紀少女たちよ、何も気にしなくていい  それは新たな女性像だ 』の歌詞が特に好きだ。若い世代についてだけでなく、(私を含む)かつて少女だった「20世紀少女」についても触れてくれているからだ。おそらくかつての歌詞に対して批判をしていた多くの人々は「20世紀少女」達が含まれたであろう。様々なしがらみに囚われながら、このままでいいのだろうかと考え、声をあげた「20世紀少女」とARMY達に感謝と愛を送りたい。あなた達は愛情深く、勇気のある女性達だ。あなた達が居たからこそ、現在のHIPHOPアイドルグループのBTSがあると、私は思う。BTSは新たなアイドル像だ。

 

 

SONG LIST 09. 『Anpanman』

BTSアンパンマン」恵まれている日本のARMY

2018年5月18日リリースのBTSの3rdアルバム『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』を聴いていて「なんだか“アンパンマン”って聞こえる空耳の曲があるな…」と思ってタイトルを見たら、そのまま『Anpanman』という曲名で驚いた。え、なんで??と歌詞を調べてみたところ、ちょっとじわりと込み上げるものがあった。

『力こぶや筋肉  バットマンみたいなスーパーカーも僕にはない / 夢見てきたスーパーマンのようなヒーロー / だけどあげられるのは、ただのあんぱん  僕はスーパーヒーローではない / 僕を呼んでくれる?  君を待っているアンパンマン / もう少し頑張ってみる  君の力になってあげたい / 僕が新世代のアンパンマン(I’m a new generation Anpanman) 僕が持っているのはこの歌一曲(※意訳)』まず、韓国でアンパンマンが放送されている事も知らなかった。アンパンマンは韓国語で「호빵맨(ホッパンメン)」らしいのだが、あくまでこの曲は日本語の「Anpanman」で歌われている。世界のARMYはおそらく「このAnpanmanって何…」と調べていると思う。そして、お腹を空かせて困っている人に自分の顔を差し出す、日本のキャラクターの存在を知るのだろう。上記のパフォーマンス動画は2020年9月29日に、アメリNBCの朝のトーク番組『The Today Show』にて披露された。おそらくほとんどのアメリカの人々は、アンパンマンを知らないにも関わらず。

ちなみにAnpanmanは前述の『IDOL』のJ-HOPEのラップにも登場する。『注目を集めるスーパースター  時にはスーパーヒーローに  駆け回る、君のAnpanman』と。『IDOL』は『Anpanman』よりも後に発表された楽曲だ。『IDOL』が発表される頃にはより一層有名になっていたはずのBTS。それでもあくまで彼等は、自分達を「アンパンマンだ」と歌う。今や世界で「アジア人代表」と言っても過言ではないような活躍ぶりのBTSは、スーパーヒーローと言ってもいい。しかし「悪と戦うスーパーヒーロー」よりも隣人に寄り添う等身大のアジア製ヒーロー「アンパンマン」だと、言いたいのかもしれない。

やなせたかし作の「アンパンマン」の誕生には、やなせ氏の従軍経験が背景にある。戦中・戦後の食料不足の中「人生で一番つらいことは食べられないこと」という考えを持つようになったやなせ氏は、「正義」を口にして「悪」と戦うものの、飢えや空腹に苦しむ者を救わない“ヒーロー物へのアンチテーゼ”としてアンパンマンを生み出した。(wikipedia参照)アンパンマンの誕生について、BTSがどこまで知っているのかはわからない。けれど『Anpanman』の歌詞はアンパンマン同様に、「ヒーロー」もしくは「BTSをヒーローだと祭り上げられること」へのアンチテーゼとしても読める。私はそこに痺れてしまった。アンパンマンの誕生エピソードを知っていても、アメリカのスーパーヒーローとアンパンマンを並列に考えた事は無かった。まさかアンパンマンの真の格好良さを、韓国アイドルグループに再認識させられてしまうとは。

『Anpanman』後半の歌詞はこう続く。『正直言うと、転ばないか怖いんだ  君たちを失望させることが / それでもあらゆる力を尽くしてでも  僕は君の傍にいるよ / また転びそうだけれど  また失敗しそうだけれど  また泥だらけになりそうだけれど / 僕を信じて  僕はヒーローだから(※意訳)』BTSの歌詞は、自身の「恐れ」や「弱さ」を歌ったものが多いように感じる。前述の『IDOL』『ON』『Boy With Luv』『Black Swan』も、BTSが恐れているのは「転落やファンを失望させること」であり、戦っているのは「それらに怯える自分自身」といった印象を受ける。スーパーヒーローは「悪」と戦うが、BTSが戦っているのは「自身の弱さ」であり、戦う理由は「信じてくれるARMY」だ。私はこの歌詞を読んで『たとえ胸の傷がいたんでも』戦う『愛と勇気だけが友達』のアンパンマンOPを思い出した。この曲にこんなにも心打たれてしまうのは、もしかすると日本のARMYの特権なのかもしれない。

少し話題が変わるが、個人的にこれまであまりK-POPを聴いてこなかったので、BTS楽曲の日本語版のCDやアルバムが存在することにも、日本語オリジナルの曲があることにも、彼らがライブで日本語でMCをしていることにも全てに驚いてしまった。2020年6月26日にリリースされた日本語曲『Stay Gold』は2020年7月15日リリースの日本4thアルバム『MAP OF THE SOUL : 7 ~ THE JOURNEY ~』のリード曲だ。

日本語で歌われている曲にも関わらず、世界のARMYはこの曲に大きな反応を示した。『Stay Gold  夢の中でも探しあてるよ  君に触れたくて / のぞき見するMoon Light  今宵眠らせない / 握りしめたその手を離したくはないよ  Stay Gold(※意訳)』世界で「Stay Home」が叫ばれる中、BTSは『Stay Gold』、この状況の中でも「輝いていて」と歌った。Stay Home, Stay Safe and『Stay Gold』。鬱屈としたステイホーム生活を送っていた世界のARMYが、BTSが日本語で歌っている曲に癒しを得ているというのだから感慨深いものがある。非韓国語圏・日本語圏の人々のとっては、この曲が韓国語で歌われていようと日本語で歌われていようと「歌われている歌詞を調べる」という行為自体は同じなのかもしれない。しかし、彼等の歌っている言葉の意味を直接理解する事ができる「特別なバージョンがわざわざ作られる」日本は、かなり恵まれているのでは…と思えてしまう。

私の好きな海外アーティストはほとんどが英語だったので、少しでも理解をしたくて英語の勉強をしたりしていた。ところが、BTSのライブを見るとMCを日本語で喋ってくれている。すごい。しかも上手い。今やグローバルスターであるBTSは、意外にも『Dynamite』が初の全編英語詞曲だ。しかし、日本語曲はすでに10曲以上あり、日本語版アルバムもこれまでに4枚出ている。どう考えても、英語歌詞の曲や英語版アルバムを出した方が需要も売り上げもあるだろうに。K-POP事情をあまりよくわかっていない私にとっては、驚く事ばかりだ。(きっと色々と業界的な風習や事情なりがあるのだろうが)正直、今後K-POP界は日本語話者を増やすより英語話者を育てる方向に転換するのではないか…と個人的には思ってしまう。BTSやBLACKPINKの活躍ぶりを見ていると、K-POP英語圏に留まらず世界へのリーチが格段にしやすくなっている。そう考えるとK-POPは今後「日本語曲」よりも「英語曲」が増えて行くのかもしれない…。というのは、私の勝手な想像にすぎない。それでも、BTSはこの年末の日本の音楽番組にも積極的出演してくれているし、日本語でコメントをしてくれている姿を見ては、もはや有り難さを感じてしまう。日本のARMYは、本国ファンの次に恵まれているのだなと思う。(ちなみに韓国語でリリースされた曲の日本語版に関しては、あまり好意的に考えられない。日本の音楽番組でも韓国語の歌唱が当たり前になることを祈っている。)

 

 

SONG LIST 10. 『Life Goes On』

新しい日常でも「人生は続く」。もがいた先の希望

2020年11月20日にリリースとなったBTSの最新アルバム『BE』からのリード曲『Life Goes On』は、12月5日付のシングルチャート「Billboard Hot 100」で1位を獲得した。韓国語で歌われた曲が1位を獲得する事も、非英語詞の楽曲が初登場で1位を獲得する事も史上初。また同日のアルバムチャート「Billboard 200」でも『BE』は初登場1位を獲得。「Billboard 200」と「Billboard Hot 100」で同時に初登場1位を記録するのはテイラー・スウィフトに続き至上2組目、アルバム5枚が1位を取る速さはThe Beatlesに次いで2位だという。BTSが長年目指して来たであろう「韓国語楽曲でのBillboard Hot 100の1位」という悲願の瞬間に立ち会う事ができて、新規ARMYながら心から嬉しいと感じた。

歌詞はパンデミックを経験したBTSの率直な気持ちが歌われている。『ある日世界が止まった  なんの予告もなく / 先が見えないんだ  出口があったりするのかな  足が踏み出せない / しばらく目を閉じて  ほら僕の手を掴んで  あの未来へ逃げ出そう / 森に響くこだまのように(Like an echo in the forest) 一日が帰って来るよ  何事もなかったかのように / 青空を飛ぶ矢のように(Like an arrow in the blue sky)また一日が過ぎてゆくよ / 僕の枕の上で、机の上で  人生は続いてゆく  またこうやって(On my pillow, on my table Yeah life goes on Like this again) / 僕は覚えてる…覚えてる…(I remember) (※意訳)』ニューアルバム『BE』も『Dynamite』も、本来このような状況にならなければ生まれる事の無かった作品だ。パンデミックさえ無ければ、彼等にとって2020年は『MAP OF THE SOUL : 7』をひっさげたワールドツアーを行い、メンバー全員が兵役から戻るまで7人での活動にしばらく別れを告げる、といった年になっていたと思われる。それが、ワールドツアーがキャンセルされ、全ての予定が白紙化。しかし、その後に『Dynamite』からの快進撃が始まるのだ。様々な新記録の樹立、韓国人アーティストとして初のグラミー賞候補、そして入隊延期。私自身、『Dynamite』が無ければBTSにハマる事もなかったように思う。私のような新たなファンも、世界には多いはずだ。それが皮肉なのか何なのか、なんとも言えない。しかし一つ断言できる事は、この結果はBTSパンデミックの中でも「前へ進む事を諦めなかった」結果そのものだという事だ。

とはいえ、BTSもはじめから「前へ進む事を諦めなかった」訳ではないようだ。BTSはこの2020年に向けて、2018年からかなりの時間をかけて準備をしてきたという。それが、全て頓挫したのだ。その脱力感は、その後の彼等の数多くのコメントからも見てとれた。2020年9月23日、BTSは再び国連のスピーチを担当。「パンデミックに直面する世界中の未来を担う世代へ向けたBTSからのメッセージ」と題されたその動画は、2年前のRM単独の英語スピーチとは違い、字幕付きの映像でメンバー全員が登場した。

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JIMINは「希望はなく、すべてが崩れさり、自分の部屋から窓の外を眺めるしかありませんでした。」SUGAは「望んだ訳ではないけれど、大切な時間だと受け入れました。」Vは「フラストレーションがたまり、落ち込みました。」と語り、それでも互いに支え合い、一緒にできることを探し、誰からともなく音楽を作りはじめた経緯を語った。J-HOPEは「ここにたどり着くまでにしたことは、信じること、全力を尽くすこと。そして自分のしていることを愛することでした。」JINは「将来のことを考えること、一生懸命頑張ることは大切です。でも、自分を大切にし、勇気づけ、幸せでいることが一番大切です。」JUNG KOOKは「僕にできることがあるなら、人々に強さを与えられるなら、それが僕たちのやりたいことです。」と語った。とても率直で等身大のこれらのメッセージは、アルバム『BE』に納められたそれぞれが制作した楽曲にも込められている。スピーチはRMの英語スピーチによって締められる。「今はこれまで以上に、自分たちが誰であるかを思い出し、向き合わなければいけないときです。自分たち自身を愛し、未来を想像するときです。BTSはあなたと一緒にいます。世界を再び想像しましょう。夜が続き、いつもひとりだと感じるかもしれません。でも夜が一番暗いのは、光が差す夜明け前なのです。」そしてメンバー全員で「人生は続く。生きていこう。(Life Goes On. Let’s Live On.)」と声をあわせる。このスピーチが公開された後、アルバムのリード曲のタイトルが『Life Goes On』であることが発表された。

アルバム『BE』は楽曲制作はもちろんアルバムコンセプトや構成、パッケージやビジュアルデザイン、MV撮影に至るまで、企画段階から制作全般にメンバー全員に役割が与えられるなどして参加した。BTSはこれまでも楽曲やコンセプトなどには関わっていたはずだが、おそらく今まで以上に深く「アルバム制作」に関わったのだろう。これは良くも悪くも、パンデミックが起こらなければできなかった事だったはずだ。2020年5月から、YouTubeBTSチャンネルではアルバム制作会議の様子などが小出しに公開されてきた。ARMYはこの様子を見守り、どのようなアルバムになるのか想像を膨らませながら心待ちにした。それらは、ワールドツアーのキャンセルでBTSに会えなくなってしまったARMY達の心を癒したはずだ。

最近はBTSの飛躍について様々な考察等を見かけたりする。その通りだな、と思うものもあれば「?」と思う事もある。なんにしても彼等の「人気の理由」を語るには、時間も文字数もいくらあっても足りない。(実際この記事もあまりにも長文になってしまった)彼等はデビューから7年をかけて、様々なことを一歩一歩積み重ねてきた。楽曲の制作も、1日15時間のダンスの練習も、世界進出への挑戦も、失敗も反省も、心が折れるような経験もした。そんな中でファンとの信頼関係を深め、自ら「自分達のすべき事」を考え、行動し、そしてパンデミックという未だ解決の見通しのつかない現状の中でも歩みを止める事なく活動した。そんな彼らがこの状況で必要だと考えたのが、「音楽による慰めと希望」だった。それが、パンデミックの世界の人々に響いたのだと思う。『BE』は『Life Goes On』から始まり『Dynamite』で締められる。これまで散々聴いていたはずの『Dynamite』が、アルバムを通して最後に聴くと、また一味違った味わいに感じられた。この記事も最後は、私のお気に入りのパフォーマンスで締めたい。アメリカのレイトショー『The Late Late Show with James Corden』にてホリデーシーズン前に公開された『Life Goes On』から『Dynamite』へとつながるパフォーマンスだ。後半では、『The Late Late Show』のアメリカのスタジオセットが見事に再現されている。

このパフォーマンスのように、BTSが再び世界を飛び回れるようになる日がいつ来るのかはわからない。けれど、きっと彼らは進み続けてくれる。年末に行われる所属事務所Big Hitによるオンラインカウントダウンライブ『2021 NEW YEAR’S EVE LIVE』も楽しみだし、グラミー賞の結果も気になる。またきっと、何かしらの用意をしてくれているだろう、という期待をしてしまう。この先の楽しみがあること、それはほんの少しの生きる活力になる。パンデミックの影響はまだまだ続くだろう。それでも、私達にとっても、BTSにとっても、人生は、生活は、これからも続くのだ。前を向いて生きていきたい。

 

 

最後に : 「アイドル」「K-POP」という括りとレッテル

最後にアメリカのレイトショー『The Late Show with Stephen Colbert』にて披露された『Boy With Luv』のパフォーマンスにも触れておきたい。見ての通りThe Beatlesオマージュの演出だが、BTSは「21世紀のザ・ビートルズ」と語られる事も多い。アメリカにやって来た「熱狂的なファンの支持を集める外国からやってきたボーイバンド」という意味の表現なのだと思うのだが、個人的にこの表現はあまり好きではない。なんとなく安直に感じるし、いわゆる「アイドルと、アイドルファンへの軽視の視線」や「レッテル」を感じずにはいられない。このパフォーマンスも、なぜBTSThe Beatlesのコスプレをさせられているのか…BTSの魅力があまり伝わらないのではないか…個人的にはThe Beatlesも大好きなので複雑…という気持ちになってしまうのだが、動画のコメント欄を見る限り同じ思いの人は多いようだ。

 

2020年11月13日、BTSアメリカの「WSJ Magazine」が選ぶ「The WSJ Magazine 2020 Innovator Awards」にて「2020 Music Innovator」に選出された。こちらでもThe Beatlesを想起させるスーツを着こなしたBTSが雑誌の表紙を飾っている。インタビューにてJINはThe Beatlesと比較されることを「光栄だ」と答えつつも、RMは「僕達はただの音楽とパフォーマンスを愛する7人の青年で、The Beatlesにも、彼ら以上になったと思った事も無い」と淡々と答えている。他のインタビューでも、繰り返しメンバーは「The Beatlesと比較される事は光栄。ですが、BTSBTSです。」と答えている。BTSThe Beatlesが違う事など、BTS本人達が一番わかっているのだ。BTSは、BTSである。(ちなみに先日、ポール・マッカートニーがTV番組で最近のお気に入りはBTSだと発言している。「自分たちの若い頃を思い出す」とのこと。もしかすると、いつかBTSとポールの邂逅もありえるかもしれない。)

また、「アイドル」へのレッテルと同時に気になるのは「K-POP」という括られ方についてだ。英語で歌われた『Dynamite』は「K-POP」になるのか。韓国アーティストならば音楽ジャンルは問わず「K-POP」になるのか。例えばスペイン語で歌うアーティストもいるが、アメリカでは彼らにもそういった括りをしているのか。「K-POP」という括りに囚われて、純粋に音楽にたどり着く可能性を下げてはいないのか。米TIME誌の2020年「エンターテイナー・オブ・ザ・イヤー」のインタビューでは、RM自身も以下のように述べている。

RM「“K-POP”が大きくなるにつれて“K-POP”って何だろう?という議論をするべきではないでしょうか。『Dynamite』で僕たちは初めて全ての歌詞を英語で歌い、Billboard 1位を取りました。英語で歌ったので“これはK-popではない”と仰る方もいるでしょう。でも“K-POP”って何でしょうか?私達はただ、音楽や自分たちのハートを“K-POP”と呼ばれる枠の中に閉じ込めたくないだけです。」(意訳)

私自身「K-POP」というジャンルにレッテルを貼っていた張本人だ。それを今、大変に後悔している。もっと早く彼等のことを追いかけていたかった。過去のライブにも行ってみたかった。もしも、この長い文章をここまで読んで下さった方がいて、あなたがBTSの音楽を聴く事に少しでも踏みとどまっている理由が「アイドルだから」「K-POPだから」なのだとしたら、そんな理由でBTSを聴かないのはもったいない、と、たかだかARMY暦3ヶ月の私は思う。彼等のつくる楽曲やメッセージから得られる学びや癒しは、一言で表すのが難しいほど暖かさと魅力に溢れているから。BTSを追いかけるのに、遅いことはない。

 

 

BTS「沼落ち日記」第1弾はこちら

shirominn.hatenablog.com

 

BTS「沼落ち日記」第3弾はこちら

shirominn.hatenablog.com